拾日記

雑学と教養、物欲と断捨離の狭間を彷徨う

社会運動は楽しい!? -「社会を変えるには」

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「社会を変えるには、あなたが変わること。あなたが変わるには、あなたが動くこと」

「社会運動は楽しい」

そんなメッセージが並ぶ「社会を変えるには」(小熊英二)。

著者自身は、「教科書にはしないで欲しい」とするが、社会運動を推進する人々にとってのバックボーンとなるような本だ。

 

なんと本書は500ページを超える。第1章で日本社会の現状を分析し、続く2章で、しゃかいの変化とともに社会運動がどう変わってきたかを紹介。第3章で、戦後日本の社会運動を整理する。一転、第4~6章では、民主主義や近代自由主義について古代ギリシャ哲学や近代政治哲学、現代思想等を著者なりに解釈しつつ、論じる。これらを踏まえ7章において、現代日本の状況に戻り、社会運動を実践する上で参考になる理論等を紹介していく。

本書の前提は、現代社会をポスト工業化社会と捉えることにある。このポスト工業化社会は、「再帰的」な人間関係が強い影響力を持つ社会であり、従来のような、ある種カテゴリー化された階級や集団の関係性の中で、合意形成・利益分配が行わる社会とは本質的に異なる社会である。また、単純な近代化の時代も終わり、リスクそのものが生産・分配される世の中(リスク社会)にもなった。

従来の社会運動は、労働者、女性といった属性(カテゴリー)に焦点を当て、そこに属する「われわれ」を単位とした運動であった。しかし再帰的な人間関係が強い影響力を持ち、リスクが生産・分配される世界にあっては、個々人がエンパワーされていくことが、社会を変革していく上で重要となる。

他方、

社会運動の対象となっている事案そのものが、様々な構造的な不満等の象徴となり、事案そのものの是非を超越することがある。2011年の原発事故以後の反原発運動では、原発が「日本型工業社会」の象徴と捉えられていると分析する。

「誰もが自由になってきた」「誰も自分の言うことを聞いてくれない」「自分はないがしろにされている」そうした普遍的な感覚と相まって、社会現象となっていく。そこには功罪両面あるが、著者は温かい目で見ている。

イギリスにおけるBREXIT、トランプ大統領の当選。政治を巻き込んだ、社会運動ともとれる動きが世界各地で起きている。もちろん、一つの理論であらゆる事象を説明尽くすことは不可能だが、本書の視点もこうした動きを理解する上で参考になるだろう。

 

本書は2013年度新書大賞を受賞している。

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