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シンギュラリティ以降、生きるために働かなくても良い時代に求められる力 -「AIとBIは人間をいかに変えるのか」

経営コンサルタントの波頭亮さんによる「AIとBIはいかに人間を変えるのか」。この本で紹介されているAIとBIは、伊藤穣一さんの言う「After Internet」と「Before Internet」ではなく、人工知能(AI)とベーシック・インカム(BI)のこと。シンギュラリティ以降の世界における生き方の変化をAIとBIをキーワードに分かりやすく論じた良書。

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AIがもたらす本質的変化

様々な技術の革新と相まって、AIによる革新は、労働に劇的な変化をもたらす。これまでの産業化革命により、物理的な仕事を機械や電力で置き換えてきたが、AIにより、知的労働までも置き換わる。一時期話題になったが、オックスフォード大学の研究者の推計によると、労働人口のうち、イギリスの35%、アメリカの45%が人工知能やロボット等に代替される可能性が高いという。

物理的な仕事だけでなく、知的な労働さえ代替される中、人間に残される仕事は以下の3つの要素を持つ仕事だとか。

  1. 身体性ベースのマルチタスク要素
  2. 直観/直感の要素
  3. クリエイティブ要素

人間ならではの身体性や感性は、AIでは代替できず、知的労働に代わり、感情労働の時代がくる。すでに、知的労働の代替は始まりつつあり、本書では、ゴールドマン・サックス本社のトレーディング部門が600人から2人にまで縮小されたことを事例として取り上げる。

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BIがもたらす本質的変化

BI(ベーシック・インカム)とは、「全ての国民に対して、生活を賄えるだけの一定額の金銭を、無条件で、無期限に給付する」制度。

既存の社会保障制度と比べても、①シンプル、②運用コストが小さい、③恣意性と裁量が入らない、④働くインセンティブが失われない、⑤個人の尊厳を傷つけない、といったメリットがあるという。

国民経済的にも、消費性向が高い低~中所得層に広くお金が流れ、消費が活性化すると考えられるし、企業活動においても、セーフティネットとしての機能を肩代わりする必要がなくなり、市場の変化により柔軟に対応できるようになる。

BIの本質的な意味は、民主主義・資本主義における根深い課題である「格差」と「貧困」を緩和し得るからだ。BIは、富の再配分を実現する、極めて強力な政策となる。

その一方で、BIは、これまでの価値観に大きな転換を図る。これまでは、憲法においても国民の義務に勤労があるように、「働かざる者、食うべからず」といった価値観が根強かった。裏を返せば、生きるために働いてきた。

しかし、ベーシック・インカムは、生活を賄えるだけの一定額を給付するため、生きるために働く必要はなくなる。果たして、それが可能となる世の中がくるのか、そうなったときに、私たちは、新しい価値観を受け入れられるのか。

 

 

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AI×BIによる新たな生き方

前述のとおり、AIやロボット等の技術革新が進むと、やがて、労働者が代替される世界が実現することになる。言い換えれば、AIにより、人類は肉体労働からも知的労働からも解放される。そして、生産コストが劇的に下がり、生きるための必需品は、誰もが望むだけの量を作ってくれるようになる。

その一方、AIやロボットによって労働が代替された世界では、市場では労働者が必要とされず、労働市場における需給の均衡が崩れる。その結果、資本家は消費者である労働者に対して商品の価格や賃金を自由に決める力が強くなるだけでなく、人口の多くを占める労働者が職を失うため、消費が減少する。

前述のとおり、BIは、こうしたAIの進展によって起こり得る「格差」と「貧困」の問題を解決し、民主主義が理想とする「機会の平等」を実現することができるとする。

AIによる知的労働代替後の世界でBIが導入されれば、最低限の生活に必要な資金が保証され、「金銭的報酬を目的としていた労働」から解放される。「自己実現や社会貢献を目的とした活動」に集中し、「学問、他者への貢献、芸術」に取り組むようになるのだ。こうした世界は、誤解を恐れずに言えば、ギリシア時代の再来である。

 

読後感

読後の第一印象は、そういえば、数年前に某経営者の方と同じような話をしたなぁということ。当時は、第4次産業革命という言葉が色々と聞かれるようになった頃で、IoTやビッグデータ、AI、ロボットといった技術革新が企業にってリスクなのか脅威なのか活発な議論が行われていた。頭の体操的に「ギリシャ時代のように、哲学や芸術を議論し合う時代が来ますかねぇ」なんて話していたが、そんな雑談を、本書では理論的に整然と解説している。

もちろん、このような世界が今すぐに来るわけではないが、今後、個々人の「人間力」といったものが重要になるのは間違いない。その問いは多分に哲学的で、それを表現する手法は芸術的なものとなるだろう。

 

ちなみに、そんな未来についてもっと考えてみたい方は、以下の記事をどうぞ。

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